内館牧子『十二単衣を着た悪魔-源氏物語異聞』弘徽殿女御はどんな人?

内館牧子『十二単衣を着た悪魔-源氏物語異聞』弘徽殿女御はどんな人?

脚本家として有名な内館牧子さん。
実は小説家としても多数の本を書いていらっしゃいます。
全然知らなくて、初読みです。
「十二単衣」と「源氏物語」の言葉が目に留まり読んでみました。

今まで、いくつかの源氏物語を読んできましたが、この物語はそれらとは少し違いました。
弘徽殿女御目線で書かれた物語です。

だから、光源氏も藤壺女御も悪役。
弘徽殿女御とその息子・一宮(後の朱雀帝)に肩入れした話です。

59もの会社から内定が出ぬまま大学を卒業した二流男の伊藤雷。
それに比べ、弟は頭脳も容姿も超一流。
ある日突然、『源氏物語』の世界にトリップしてしまった雷は、皇妃・弘徽殿女御と息子の一宮に出会う。
一宮の弟こそが、全てが超一流の光源氏。
雷は一宮に自分を重ね、光源氏を敵視する弘徽殿女御と手を組み暗躍を始めるが…。

まず面白いのが、平安時代にタイムスリップというわけではなく「源氏物語」という物語の中にトリップしてしまうというところ。
そして、弘徽殿女御の専属の陰陽師となり生き抜くところ。
光源氏が完璧だと認めながらも、一宮に肩入れしてしまうところ。
(それは、一宮の境遇を自分と重ねてしまうため)

劣等感にさいなまれている現在

主人公は伊藤雷(いとう・らい)。
父は風(ふう)、弟は水(すい)。
祖父が名付け親で、風神、雷神、水神に由来する。

父は順当な人生を生きているし、弟も何でもよくできる。
自分は全てが「二流の中」、どこにでもいる凡庸な人間。

普通だったら、それで十分なんだろうけど、弟がずば抜けて出来がいいので、親は何でもないことをすごく褒めるし、弟のすごいところをあまり褒めない。
差別のないように扱ってくれる親にも申し訳なくて、つまり劣等感の塊。

【フリーターで迎えた卒業式がすむと、「根なし草」の自分を実感させられた。二流私大のワケのわからない学部でも、今までは所属している安心感があった。それは確かに安心感だった。今、どこにも所属するところがなく、ただ生きているだけの人間になってみると、恐さが襲ってくる。今に必ず、気持ちが荒れるという確信が恐い。】

現代と平安時代の違いに感動

なぜだか、源氏物語の中にスリップしてしまい、持っていた薬で窮地を脱し、弘徽殿女御に仕えることになる。

最初は家の寒さとか、食べ物の違いとか、いろいろなことに不自由を感じ、戸惑うが、自然の美しさには感動する。
そして、不自由には慣れてしまう。

【一日二十四時間には「六季」があると気づいた。「六季」は俺の作った言葉だが、「夜明け」「朝」「昼」「夕方」「夜」「深夜」だ。】

【六季はそれぞれがくっくりと違う。夕方から夜になり、深夜へと進む。空は深夜二時から三時が一番暗い。そして夜明けが来て、やがて陽が高く昇る。そのうち夕焼けになり……という違いを見ていると、あまりの美しさに泣きそうになる。神を感じてしまう。】

【テレビもネットもなく、雑誌も新聞もない。だから、色んなことを考える。色んなことを感じる。そんな自分や、そんな生活に俺は満たされている。】

【あっちの世では、何でもすべて諦めてかかっていた。何かを始める前に、自分でマイナスの結論を出していた。今なら、今の俺なら就職の内定も出たかもしれない。】

弘徽殿女御の言葉

弘徽殿女御(こきでんのにょうご)は今ならバリバリのキャリアウーマン風。
男に媚びるとか、おしとやかにとかが出来なくて、桐壺帝にも見放されているわけだけど
世の中がよく見えているし、政治に向いている。
雷鳴(雷)はそんな弘徽殿女御を気に入り、何かと相談に乗ったりするのだ。

【人は老い、時代は動く。いつまでも同じ人間が同じ場所に立っていられるはずがない。必ず若い者の世になる。それをわきまえることが大切。若い者には負けぬと、あがいたりみじめな画策をしないことが、人の品性というもの。若い者には負ければよろしい】

現在に戻って人生を生きなおすのは苦痛だ

何十年も物語の世界で生きたあげくに、急に現在に戻ってきた雷。
家はあるのか、家族は生きているのかと行ってみると…ほとんど時間が経っていなかった。

でも妻と子供の形見は持っているし、髪の毛は伸びている。
たった20分ほどしか経っていないのに。

【あっちの世で四十八歳まで生きて、多くのことを経験し、多くのことから自由になり、年を取っていく面白さを知った。なのに、実は二十二歳。このギャップの中で、俺は混乱している。そして、再び二十二歳からやり直す苦しみは、拷問に等しい。よく「若い頃に戻りたい」とか「若返りたい」という人がいるが、できないとわかっているからこその、言葉の遊びなのだ。本当に若い頃に戻って、もう一度やる疲労感、いや徒労感は、生きる気力を削ぎ落とす。】

弘徽殿女御の元に戻りたいのに、戻れない。
しばらく泣き暮らすわけだけど、心は48歳。
ちゃんと成長した。

源氏物語の研究をしようと決意して、大学院の受験勉強を始めた。
周りにはまだ言えないけど、いつか笑い話になればいい。

雷が物語をかき乱したことで、話に違いがないのかが気になるところ。
多分ないのだろうけど…。

私は、光り輝く君が好きなので、まあこんなのもありかな、という程度だったけど、設定は面白かったと思う。
きっと映像化したら、かなり面白くなるんじゃないかな。

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