安藤祐介『テノヒラ幕府株式会社』

安藤祐介『テノヒラ幕府株式会社』

冒頭分「自分にもうひとつの名前があったことなど忘れかけていた。奇妙な名前の会社から届いた一通の怪しいメール・・・」
この文とタイトルの「幕府」を見て、タイムスリップかな?ファンタジーかな?と、勝手に勘違いしてしまいました。
もちろん、少し読めば、表紙をよく見れば、単なる勘違いだとすぐにわかります。

表紙にはこう書かれています。
あなたは誰と働きたい?
本書には、気の合わなかった同僚に話しかけたくなる作用があります。ご注意ください。
(効果には個人差があります)

あらすじと感想

これは「テノヒラ幕府株式会社」というスマホゲームの開発会社の話。
表紙に描かれているのは、その社員たちです。

真ん中でノートとえんぴつを持っているのが、主人公の宇奈月雪丸(うなづき・ゆきまる)こと立浪拓真(たつなみ・たくま)。
絵師として新規採用された25歳。
ブラック企業で死にかけて、就職活動に行き詰まり、全財産2300円を持って面接に向かう。

「ゲームはよく知らない、スマホを使ったこともない。いや~、これはまいったわ」
「来てくれてありがとう、君みたいな人を待ってた」

そう言われ、
風変わりな面接に戸惑いながらも、住む家とカレーライスにつられて、とりあえず働くことに。

左の作務衣の女性がゲームクリエーターであり、社長の寺井サチ。
クリエーターとしての自分と経営者としての自分、その二つの自分の間でもがき苦しんでいる。

その左のグレーヘアの男性が小野里譲二、55歳。
大手一流企業から転職してきた、拓真と同期のビジネスマン。
他の社員たちの冷たい視線にさらされながらも、会社のために頑張っていく。

同じシェアハウスに住む、修、ナベさん、薫。
家政婦のヨシエさん。
cooの瀬川さん。
インターンの高校生、西嶋少年。

ゲームを作っていれば幸せ、という社員たちと、
気持ちは同じだけど、それでは会社がもたないと、苦悶する社長のサチ。

仕方なく受け入れた小野里さん。
しかし、考え方の違いが大きすぎて、社員たちとの間に生まれる軋轢。
それでも小野里さんは自分を信じて会社の力を付けようと走り回っている。

実績を積んでいく小野里さんに対して、決して敵ではないと、少しずつ理解を見せるクリエーターたち。

小野里さんにもまた同年代のひきこもり息子の悩みがあった。
しかし、そのひきこもりの息子が、ゲームの世界では有名で、ちゃんと外と繋がっていたことを知る。

お互いが、少しずつ理解するようになる。

ゲーム会社の実情を知ることもできるし、“スタートアップ”会社の苦悩もわかる。

ドラマの「東京トイボックス」とか「リッチマン,プアウーマン」を思い出したりしながら読んでました。

心に響いた文も少しメモしておきます

“たった一通のメールや、マウスをクリックした何気ない一挙一動が、時に誰かの人生を大きく変えることもある。”

“きっと純度百パーセントのノンフィクションはただひとつ。今この瞬間だけだと思います。そして、一秒後には少しずつフィクションになってゆく”

“過去が美しく思えるのは、ジョージさんがその時その時の“今”を精一杯生きてきたからじゃないんですか。すがりたくなる過去の栄光のひとつやふたつ、あってもいいとアタシは思いますよ”

“今目の前のことに没頭するって、悪いことじゃないんだって思えるようになった。”

“今ある場所、今いる人、今生きている時間を受け止めよう。きっと今を受け止められる人間は、苦い過去すらも変えることができる。”

“今の拓真にとって仕事をする上で大事なことはただひとつ。それは「何を仕事にするか」でも「どこで仕事するか」でもない。「誰と仕事するか」だ。”

“生まれてから死ぬまで、人間にはリセットはないのだ。積み上げた経験値は必ず残り、その全てが“自分”を形造る。”

“前を向くために、過去も受け入れるのだ。”

“自分なんて、探して見つけるものでも意図的に作り上げるものでもない。きっと積み重ねてきた時間の上にある今、ここにある今の姿なのだ。”

おわりに

なかなか面白く、前向きになれる作品でした。

初めて読む作家さんだと思っていたけれど、プロフィールを見たら
『被取締役新入社員(とりしまられやくしんにゅうしゃいん)』の作者でした。
あれもとても面白かった。

他の作品も読んでみようと思います。

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